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院長ブログ
歯の痛む場所を錯覚する? ~関連通のはなし~
先日、来院された患者さん。右下の一番奥の歯がズキズキするということでエックス線、歯周検査などをしたものの、右下には虫歯などの病気は見当たりません。右上には神経に近そうな大きな詰め物が詰めてありました。
「お痛みの原因は右上かもしれませんね、、、」と説明しようとすると、
「いや、そこは痛くないから右下の治療をしてください。」おっしゃられました。
「ーさん。特にお痛みが強いときは痛みの原因となる歯を錯覚することがあります。右下には問題がありそうには見えないので、原因は右上の歯かもしれません。一度右上に麻酔を打ってみて、痛みが引くようならそこが原因だと分かりますので麻酔で確認してみましょう。」
麻酔を打った後、
「どうですか?お痛みは引きましたか?」
「はい。楽になりました。先生、こんなこともあるんですね。」
そう、痛みの本当の原因は右上の歯だったのです。脳が痛みの位置を誤って認識していただけでした。
痛みの錯覚=「関連痛(かんれんつう)」とは?
歯の痛みは、三叉神経(さんさしんけい)という顔の感覚をつかさどる神経によって脳へ伝えられます。この三叉神経は、上あごや下あご、顔の各部位に分かれて走行していますが、情報が集まる過程で「どの歯からの痛みなのか」が曖昧になることがあるのです。
このように、実際に悪い歯と違う歯に「痛みを感じてしまう」ことを関連痛と呼びます。
関連痛の特徴
原因として多いのは神経の炎症(歯髄炎)や知覚過敏
隣の歯や上下の歯に痛みを感じることがある
左右の誤認は基本的にない(三叉神経は左右で分かれているため)
特に奥歯に多い

関連痛は奥歯で起こりやすく、隣の歯や上下の歯を間違えたりすることがあります。しかし三叉神経は左右1対になっており顔面部の感覚は左右別々に支配されているので、左右で痛みを錯覚することはありません。
また歯痛錯誤は、歯周疾患や根尖病変よりも知覚過敏や大きな虫歯による痛み(歯髄炎)で起きやすいと言われています。
なぜ誤診は避けなければならないのか
間違った部位を治療しても、痛みは取れず、逆に健康な歯を削るリスクが生じます。
特に神経に関連する処置は慎重に進める必要があるため、「痛い場所=原因の歯」ではないという認識を、歯科医師も患者さんも共有することが大切です。
まとめ:歯の痛みは「場所」より「原因」を見極める
歯の痛みがあると、「この歯が悪いに違いない」と感じるのは自然なことです。しかし、神経の仕組みにより、実際の原因と感じる場所が異なることも少なくありません。
● レントゲンで異常がない
● 押しても痛みが出ない
● 詰め物が深そうな歯が近くにある
そんな時は、関連痛の可能性を視野に入れながら、慎重に診査・診断を進めていくことが重要です。